2013年4月8日月曜日

東京のオペラの森2013- IRCAM公演~クロード・ドゥラングル氏出演

東京・春・音楽祭 -東京のオペラの森2013- IRCAM公演を聴いてきました。
IRCAMの電子音響による音楽会で二部構成。後半はClaude Delangle(sax)が出演します。

当日は岩手県花巻市から移動です。午前中はイギリス海岸で楽器を吹いて(^_^;)、午後に移動という強行軍。会場に歩いていけるところに宿をとったのですが、公演前に別に大事な用事もあり、荷物をおいてシャワーを浴びてバタバタ出かけました。


公演前に所用があって皇居前。八重桜と右近桜で春らんまんでした。



Delangle氏は今回の来日でリサイタル公演もありました。皆さんそっちに行きますかねやっぱり。私は旅行の日程もありましたが、内容的にも断然こちらが面白いと思うんですが・・?こちとらCDでは聴けないものを聴きたいですね。


■第一部 ギター二曲。ハープ・ツィンバロン・コントラバス・ギター合奏が一曲です。

Sul Segnoは ハープ・ツィンバロン・コントラバス・ギター合奏の曲。

今回のプログラムの大半がそうですが、楽器の演奏に対して、(おそらく)ピッチ検出でMIDI制御されるソフトシンセ、リアルタイムで演算処理された音声信号がPAから出力されます。空間エフェクトではなく、放り込んだ音とはまったく違う音程、リズム,音色を伴います。

それらのシーンは時間の進行と共に変化していきますが、おそらくはミキサーのチャンネル毎の入力や、入力信号を分析して、条件分岐して進行しているのだろう、と思います。それら全てが曲である、

ただ、演算処理とはいうものの、各楽器のパートは精通した演奏家でなければ演奏できない精緻で複雑なものです。

PAの質も高く、レゾナンス系の高次倍音・超低音が頻発するのにハウリングなどは一切ありませんでした。生楽器とのブレンドも違和感がない上質な出音です。ただ、左に寄った席だったので、定位の変化を伴った効果はよく分かりませんでした。 

一部では、曲の完成度とものこの曲が白眉。(エレキギターの1曲だけは一般的なエフェクターが中心でした。)

Sul Segnoでは曲の開始にPAに親指を立てていました。またアコギの曲"Kogarashi"では、右手で余韻をコントロールするようなゼスチャーが。オペレータへの指示か・・はたまたビーム操作?ハービー・ハンコックのような(´・ω・`)?

大石将紀さんが来てますね(^^)。原博巳さんもすれ違ったような・・


■第二部 Delangle氏 一人だけが登場します。2曲のセッティングはステージ上にあらかじめ両方共セッティングしてあります。


ブレーズ:二重の影との対話

ステージ上に六つほどペダルと調光照明付きの譜面台。シーン切り替えのキューをペダルで行なっていたようです。これによりシーンが遷移するようで、譜面台のライトの調光も制御されていて、該当シーンの譜面台のライトが明るくなります。各マイクの入力チャンネルによる条件分岐もあるのかも・・。

本人の事前録音によるサクソフォンの音声に対して本人が生でオーバーラップしていきます。生音に対する音響処理もあったと思います。

テープ(WAV)というクラシックな方法に対して、キュー・エフェクト・ライティングまでパッケージされた方法論的完成形、と言えるでしょう。音楽的なシステムではなく、ステージの為のシステム、というか。

気になった点は、録音された音と生演奏の音の間に大きなギャップがありました。ギャップを埋めるためには同じ会場・同じマイクで録音する必要があるでしょう。

演奏そのものは本人のスキルがなければ成立しない高度なもので、もちろん素晴らしかったです。

野平一郎:息の道

こちらは一転して、一部の"Sul Segno"同様、フルのリアルタイム音響処理の作品です。

曲の前にシンセ音が一瞬流れてしまい、曲が始まったかとおもいきや、楽器のチェックに人が現れて実はまだ始まっていなかった・・というトラブルがありました。曲かと思って聴いてしまいましたが、みんな気づかないフリ・・・。

アルト・ソプラノ・テナー・バリトンはマイクの定位置があります。それぞれの演奏に対して、ソフトシンセ&音声信号処理、リズムシーケンスの生成がリアルタイムの演算で行われます。ペダルやゼスチャーの様なものは見られませんでした。、演奏の音声信号(あるいはマイクチャンネル)によってシーンが変化していきます。これは"SluSegno"と同じです。

音響処理でひとつ驚いたのは、ソリストが演奏したサクソフォンの重音(一番ポピュラーなもの)に対して、それがサンプル&ホールドされてロングトーンになり、なんと構成音の一つが動いて和音が変わりました。ピッチ検出をして、構成音を演算処理で分離している?

マイケルがハーモナイザーでやっていたことと効果は同じなのですが、意味合いは全く違いますよね。重音が違ってもやってくれるのかな?どのくらい自由度があるのかは不明ですが。


その後サンプル化されたサックスの音が自由な和音を作っていくのですが、非常にリアル感がある(その場で発生している)力のある音でした。サックスアンサンブルの響がしていました。


Delangle氏の演奏ですが、PAで増幅した音でもまったく雑味は聞かれず、本当にシュアでクリアーな発音で脱帽です。特に、バリトンとテナーの音に驚きました。コントロールされているだけでなく、非常にテナー・バリトンらしいファットでしかもクリアーな音でした。最低音の素晴らしい響き。私個人は氏の音に違和感を感じていたのですが、今回のコンサートでは全く感じませんでした。いわゆるリサイタルレパートリーですと多少あるかもしれません。サクソフォンの器楽面としても素晴らしいコンサートでした。

日経ホールからのぞむ皇居方面
■総括

リアルタイム処理の醍醐味を感じる瞬間はは、投げた音に対して全く違う音色・音程・リズム自発的に生成されて、勝手にに蠢いている瞬間ですね。

これ、ジャコやマイケル(今回もエレキギター作品がありました)がルーパーやハーモナイザーでやっている行為とどこが違うのか?冨田勲の近作『イーハトーヴ交響曲』での初音ミクとのシンクロにおける『技術的な妥協』とも繋がってきますが、これらは手段はどうあれステージの成功が何より優先されます。

対して、IRCAM作品はステージのみならず、手段についても妥協を排して成功していないと意味が無いであろう、という点が異なります。その辺を考えると興味がつきません(ポップスと比べんなヽ(`Д´)ノとのツッコミはなし)。