Florent Schmitt / Legende op.66のヴァイオリン版です。
フローラン・シュミット/レジェンド(伝説)といえば説明不要のクラシカル・サクソフォンのレパートリーですが、独奏楽器にはヴァイオリン・ヴィオラも併記されています。ヴァイオリン/ヴィオラ版の印象はやはり格段にダイナミックである、ということでしょう。サクソフォンの倍の音域で上昇下降し、しかもトレモロを使うケースが多いので音数も倍以上になります。
1918年といえばSigurd Rascherはまだ11歳。Vincent Abatoは生まれていません。当時(1920年前後)のサクソフォンはフロントFはそろそろ標準装備されている時代ですが、アルティッシモは一般的ではないですし、Eliza Hallはアマチュアの好事家ですから難易度も考慮されたのではないかと思いますが、東洋的で奇数連符が乱立するこの曲はサクソフォン版であっても決して平易な作品ではありません。
難易度から言うとサクソフォンがリダクション版ということになってしまいますが、開始6分前後・・再現部直前の全音域のアルペジオはCis-Gisで当時のサクソフォンの音域と一致していますから、あくまでサクソフォン版が基礎なのではないか、と思います。委嘱に際して、ヴィオラ・ヴァイオリンの為にも書いた理由はなんでしょうか?演奏対象を広げるため、出版社の意向、サクソフォンの限界に対するフラストレーション・・。いずれにせよ、ヴァイオリン・ヴィオラ版がサクソフォンの音楽的・器楽的な限界を遥かに超えた高いハードルであることは間違いないでしょう。
ヴァイオリン版は基本的にはヴィオラと同じですが、音域が異なりますのでオクターブ高い場所が多数あります。音のふくよかさはどうしても少なくなりますが、再現部直前のクライマックスが象徴的です。
当然のトレモロでの急降下、そして最高音gisは煌くようなフラジオレット・・・霧深い山中で突然稲妻が走り木が真っ二つに裂けたような情景が浮かびます。
また、一部ヴィオラ版にもない音型があります。最終3小節のDGECAFの下降分散和音。これが2オクターブにわたって2回繰り返されます。最後の音型はD-A。最後のAはサクソフォン版は休符が入ってオクターブ上がります。
またこの下降音型は、ハーフ・スタッカートなのですが、ヴァイオリン版で聴くと『ああ、この音の長さなのか!』と納得させられました。弓を離して余韻が残った長さなのですね!サクソフォン奏者の多くはテヌートにしか聴こえません。聴きなれたサクソフォンで感じていた、なんか不自然に平坦に感じる場面とか平易な曲に聴こえてしまう原因が分かった気がします。
サクソフォンで3度も録音しているClaude Delangle氏は興味深い試みを行っています。たとえば、こちらの箇所はヴァイオリン/ヴィオラ版は5度になります。
この箇所はサクソフォンでは4度ですが、Delangle氏は"Under the sign of the sun"収録バージョンでは5度で演奏しています。曲の最終音のAはヴィオラ版同様にブレスを挟まずオクターブもそのままで演奏しています。その他の部分はオクターブ上げたりはしていませんので大きな印象はかわりません。
やはり、ヴァイオリン版は無理としても、ヴィオラ版通りに演奏することはアルトサクソフォンでは不可能でしょうか?練習番号11-2小節目のAis-(アルトサクソフォンでトリプルハイG)・・。楽々とは言わないまでも現在のトップ奏者では音域的には問題ないでしょう。Delangle氏は同じCDのイベールにおいて、ラッシャー原典のadlib完遂という最高難度をクリアする快挙を成し遂げていますが、Legendeでは音域は手付かずです。
音域・フレージングとしても簡単ではないと思いますが、少なくとも各所に出てくるトレモロは可能です。チャレンジする奏者はそろそろ出てきてもおかしくないですし、10年後にはヴィオラ版によって演奏するのが標準になっているのでは・・と想像しています。
0 件のコメント:
コメントを投稿